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Happy Birthday "Banri"! [小説 : Dolly Shadow]

イラスト/桜井嬢

■ 魔法使いのラヴォクス、バンリが2月9日にお誕生日を迎えました。
お誕生日おめでとう、バンリ!
そして、バンリ降臨と共に始まったDollyShadow世界も3周年です。
(以下はお誕生日話と称したバンリ話です。以前途中のままだったものを完成させました)
  
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 僕は、バンリと申します。
 現在は、フリーの賞金稼ぎとして生計を立てています。
 もうひとつ、魔法使いという肩書きもありますが…… 職業名として名乗るには少々ファンタジーすぎる気もしますので、控えておきましょう。
 とは言っても、賞金稼ぎという職業も、世間的にはあまり声高に名乗れるものではありません。
 表向きはGLL警察の協力者、ということになってはいますが…… その陰で、色々と非合法な仕事を請け負うことも多い為です。
 都会の闇の住人。
 裏家業人。
 野良犬、野良猫。
 どこか詩的な呼び方から、侮蔑的な呼称まで、人は様々な表現で僕たちのことを呼ぶようです。
 どちらにしても、僕たちが住む世界は、都会のビルの陰。
 日々を平穏に暮らす一般人が足を踏み入れるのさえ躊躇うような、裏通りの影の中。
 時々、僕たち裏家業人のことを『格好いい』と言って下さる方がいらっしゃいますが…… そのありがたいお言葉は、映画やゲーム主人公達へ向けるべきでしょう。
 実際の都会の闇を、一般の方が見るべきではありません。
 そこは貴方が想像しているよりも、遙かに暗く、冷たく、薄汚れたところなのですから。
 ……ですが、それは平穏に暮らしている方にとってはの話。
 僕たちのような者の多くは、過酷な都会の闇を己の力で生き抜いていくことに、ある種の誇りを持っているのです。
 ですから、どうか同情だけはなさいませんよう。
 陽射しの降る昼があれば、宵闇に包まれる夜もある。ただ、それだけのことなのです。
 

 今はそのような僕ですが、かつては、某企業に務めていました。
 所属していたのは、口に出すのも憚られるような暗部ではありましたが…… 一応、巨大企業の一員という、安定した肩書きを持ってはいたのです。
 ですが、少々そこで失敗をしましてね。
 その責任を取るという形で、解雇となりました。
 それを聞いた方は、きっと気の毒にと言って下さるでしょう。クビになってしまって残念だったね、と。
 ですが、実のところは…… その『解雇』とは、僕にとっては最大の恩情だったのです。
 何しろ、本来ならば、僕は『処分』されるところでしたので。
 平穏な昼の世界に住む方には、詳しい説明はしない方がいいでしょう。『処分』がいかなる罰であるか、きっと少なからず気分を害されるでしょうから。
 ともかく、僕は最悪の処分を免れました。
 そして、企業という大きな国家から、暗い裏通りへと放り出されたのです。飼い猫が捨てられ、野良猫になったように。
 後ろ盾を何も持たない野良猫が、都会の闇の中で生きていく…… それは、とても過酷なことです。
 ですが、後ろ盾を持たないということは、誰にも縛られないということでもあります。
 野良猫になって、僕は、生まれて初めて自由を手に入れました。
 初めての、自由。
 それは、自分のやるべきことを自分で決められること。
 今までのように実戦的な魔法ばかりではなく、花を咲かせたり、色とりどりの魔法薬を作ったり、自分の好きなように魔法の研究が出来ること。
 そして。
 自分の心の動くままに、あの人のことを、好きでいられること。
 ……千紗さん。
 僕の幼なじみで、親友で…… 僕の、一番大切な人です。
 あの人に出会って、僕の人生は変わりました。
 あの人からもらった光のおかげで、僕はここまで生きてこられたのだと思っています。
 僕が、どうやってあの方に出会ったのか……
 それを、少しお話しましょうか。
 それにはまず、僕の生い立ちから聞いていただかなければなりません。
 少々長い話になるかもしれませんが、聞いていただけますか?
 
 
 
 
 
 
  
 僕は、ごくありふれた企業人の家に生まれました。
 父の種族はムシチョウ、母の種族はラヴォクスでした。僕は、母の方の遺伝子を濃く継いだようです。
 家の経済状態は、平均より多少潤っている程度だったかと思います。
 父は、後に僕が務めることになる、あの巨大企業に勤めていました。
 あまり芽が出ず、当時せいぜい係長クラスだったのではと思います。それでも、山のように存在する子会社ではなく、グループ最中央の本社に所属していたわけですから、それなりに才覚はあったのかもしれません。
 子供は、二人いました。
 僕『バンリ』と、そして、二歳年上の兄『カイリ』です。
 兄のカイリはムシチョウ、弟の僕はラヴォクスとして生まれました。
 種族は違えど、僕たち兄弟はとてもよく似た顔をしていました。鏡に映したようにそっくりだと、幼い頃からよく言われたものです。
 ですが、兄と僕は、外見はよく似ているのに、内面は全く違っていました。
 兄のカイリは、幼い頃からとても優秀。
 頭が良く、機転が利き、運動神経にも優れていました。ハキハキと利発で、何事にも物怖じしない積極性があり、あらゆる面で大人に好かれる要素を持っていました。
 それに比べて、弟の僕は……
 僕はとても内気な子供で、勉強でも、運動神経でも、全ての面で兄よりも劣っていました。
 大人達の前では身を竦ませてしまい、子供らしく笑うことも出来ない。そんな、可愛げのない子供だったのです。
 父は、優秀な兄をとても可愛がっていました。
 その一方、不出来な僕のことは…… 父にとっては、酷く気にくわない存在だったようです。
 ことあるごとに、父は僕に辛く当たりました。
 気にくわないことがあれば僕を怒鳴りつけ、それでも足りなければ、手を上げられたことも…… 何度も、ありました。
 いえ、仕方のないことですね。
 にこりとも笑わず、いつもビクビクと顔色ばかりうかがっている子供。そんな子供を、可愛く思えるはずがありません。
 父が僕より兄を可愛がったのは、僕がラヴォクスだったのもあるでしょう。
 誰だって、自分と同じ種族の子供の方が可愛いに決まっていますから。
 ならばラヴォクスの母は僕を可愛がってくれたかと言うと、そうではありませんでした。
 母はとても大人しい性格で、父の言いなりだったのです。
 それに、母だって優秀な兄の方が可愛かったに違いありません。僕は、本当に…… ただ物陰でおどおどしているような、陰気な子供でしたから。
 兄のカイリは、そんな僕のことをよく庇ってくれました。
 可愛い長男に止められては、両親もそれ以上僕を責めることは出来ません。
 優しい兄のことを、両親はますます愛し…… それに比べてと、僕のことを冷たい目で見るのです。
 兄の利発な、そして少年らしい魅力的な笑顔は、今でもよく覚えています。
 僕には、とても出来ない笑顔でした。
 よく似た顔をしていても、表情までは同じにならないものですね。内面が外見に及ぼす影響は、とても大きいのだと思います。
 兄は、時に、僕のことをとても可愛がってくれました。
 ですが、そうかと思うと…… まるで手のひらを返したように、僕に酷い仕打ちをしたりもするのです。もちろん、両親のいないところで。
 可愛がられたり、酷いことを言われたり。
 何がなんだか、今でもよくわかりません。僕の兄は、一体どういう人だったのでしょう。
 気まぐれで可愛がってもらっても、僕は決して嬉しくはありませんでした。
 それどころか、逆に恐ろしく思ったのを覚えています。
 ただ、僕がひねくれていただけならいいのですが…… 僕は、兄の笑顔がとても怖かったのです。
 どうしてなのか、理由は今でもわかりません。
 ただ、兄カイリのことは…… 今でも、まだ…… 怖いです。


 僕は全てのことを兄と比べられ、やがて、比べることもされなくなりました。
 いえ。
 僕だって、努力をしたつもりです。
 少しでも自分を認めてもらえるようにと、子供ながら、心を砕いた時期もありました。
 でも、そんなのは無駄なことでした。
 僕が何をやっても、兄の前では全てが霞んでしまい、僕の頑張りが評価されることなどなかったのです。
 それどころか、ますます父の機嫌を損ね、怒鳴られるばかり。お前はなんという出来損ないなのか、と。
 僕は、何をやっても駄目だ。
 僕には、何の取り柄もない。
 何の、価値もない。
 幼かった僕は、自分のことをそう思い込み…… ますます暗く、陰気な子供になってしまいました。
 本当に、我ながらなんて可愛くない子供だったのでしょう。
 僕を毛嫌いしていた父の気持ちも、今になってみれば、少しわかる気がします。
 ですが、そんな父の気持ちなど、幼い僕にはわかりません。
 僕は父のことを恐ろしく思い、父の言動ひとつひとつに怯えてばかりいました。
 家にいる時間は、僕にとってはまるで針のむしろのようでした。
 僕にとって、父は恐ろしい暴君です。
 でも、逃れることなんて出来ません。父のお陰で、僕は生かしてもらっているのですから。
 僕は、耐えるしかありませんでした。
 いつ終わるかわからない嵐を、ただ蹲って堪え忍ぶしかなかったのです。

 ですが、そんな僕に…… ある日、一筋の光が射しました。
 僕が、8歳の時でした。
  
 
 
 
 
 
 
 あの日のことは、忘れるはずもありません。
 僕が、初めて千紗さんと出会った日。
 あの日…… 僕は、父の些細な忘れ物を届けに、父の会社へ行きました。
 8歳の子供に無茶なことをと、思われるかもしれませんね。でも、兄は塾へ行かねばならず、母はその送り迎えで忙しかったものですから、父は僕に持って来いと電話で怒鳴ったのです。
 色々と苦労して、僕は何とか父のいる会社には着きました。
 今思うと、そこは本社ではなく、子会社のひとつだったようです。父はそこへ出向していたのでしょう。
 何とか事情を話して中に入れてもらいましたが、父は手が離せないというので、僕は小さなロビーのような場所で長いこと待たされました。
 知らない場所……
 知らない大人達だらけの場所……
 幼心に、自分が場違いな存在だとわかりました。
 頼るべき父は、いくら待っても来てくれません。それに、例え来てくれたとしても、父は僕を怒鳴りつけこそすれ、守ってなどくれないでしょう。
 不安で…… 怖くて……
 押しつぶされてしまいそうで……
 その時の僕は、今にも泣き出しそうな顔をしていたそうです。
 後で、あの人がそう言いましたから。
 そんな僕に、あの人は興味を持って下さったのです。
 子供らしい好奇心と、あの人らしい優しさで。
 
 
 それは、突然のことでした。
 何か元気な足音がしたと思って、顔を上げると…… ひとりの子供が、僕の側に駆け寄って来たのです。
 僕と同じ歳くらいの、男の子でした。
 ふわふわの金髪をリボンで束ねた、とても整った顔立ちの子です。
 ビロードのような黒のブレザーに、胸元にはアスコットタイ。半ズボンと白いハイソックスの間に見える脚はすらりと細くて、履いている革靴もぴかぴか。その身なりの良さは、子供の僕でも一目で『お金持ちの子だ』とわかったほどです。
 怯えている僕の顔を、彼は遠慮することなくのぞき込んできました。
 そして、どうしたんだ? と、不思議そうに尋ねたのです。
 何をそんなに怖がっているんだ? と。
 僕は、どうしたらいいかわからなくて…… ただ、首を振るしかありませんでした。
 だって、怖いもの。
 そんなことを言ったような気がします。
 少年は、しばらく不思議そうにしていました。
 何しろ僕はすっかり怯えていて、要領を得たことなど言えませんでしたし…… 突然知らない男の子に側に寄って来られて、内向的だった僕は、気後れしてしまったのです。
 僕たちは、あまりかみ合わない言葉を二・三交わしました。
 そうしているうちに、僕がとにかく酷く不安に思っていることを、少年も理解したのでしょう。
 彼は僕の隣にひょいと腰掛けると、胸ポケットを探りはじめました。
 そして、これをやるから泣くなと、笑いながら何かを差し出して来たのです。
 彼が僕にくれた物……
 それは、テントウムシの形をした、チョコレートでした。
 銀紙に描かれた、可愛いテントウムシの絵。その鮮やかな赤い色を、今でも良く覚えています。
 彼のポケットに入っていたせいか、それは少し溶けかけていました。
 だけど、彼に促されるままそれを口に入れると…… とろけるようなミルクとチョコレートの味が、ふわりと口いっぱいに広がったのです。
 なんて、なんて…… 美味しいんだろう。
 僕は、心からそう思いました。
 もちろん、僕だってお菓子くらい食べたことはあります。でも、美味しいと思ったことなんてなかったのに。
 だけど、彼がくれたチョコレートは……
 僕が震える手で銀紙を剥くのも、怖ず怖ずと口に入れるのも、彼はずっと見守っていてくれました。
 とても、とても、優しい笑顔で。
 気が付いたら、身体の震えが止っていました。
 チョコレートが溶けてなくなる頃には、少年への気後れも、少し和らいでいました。
 こんなに、美味しくて…… 優しいことは、はじめて。
 僕は、とても戸惑いました。
 だって、こんなことは初めてだったのです。
 どんなこと? って、具体的には説明出来ませんが…… でも、本当に初めてだったのです。
 こんな、暖くて……
 優しくて、甘くて…… 胸の奥が、むずむずするような……
 こんな気持ちは、僕は、はじめてでした。


 僕は、彼にお礼を言わなければと思いました。
 何とか笑おうとしながら、ありがとう、と言ったような気がします。
 すると、彼は少しの間じぃっと僕を見つめました。今思えば、まるで息を飲んだように。
 そして、彼はまたニコッと微笑むと、一緒に遊ぼうと言ってくれたのです。
 彼は僕の手を引いて行こうとしましたが、僕は父を待っていなければいけません。僕が慌ててそれを言うと、彼は聞き分け良く頷いて、また僕の隣に腰掛けました。
 そして、僕のことを、偉いなと褒めてくれたのです。
 僕の手を、ぎゅっと握ったままで。
 ……ああ。
 今まで僕は、偉いなんて言ってもらったことはありませんでした。
 まして、こんな優しい笑顔で…… こんな風に、手を握ってもらいながら、なんて。
 少年の手は、ぬくもりでいっぱいでした。
 目の前で揺れるブロンドの髪も、その笑顔も、何だか眩しいほどでした。
 なんて暖かいのだろうと、僕は思いました。
 まるで、お日さまみたいだと…… そう、思いました。


 そうして二人でいた時間は、あまり長くはなかったと思います。
 彼がやって来たのと同じように、それはとても唐突でした。
 突然何人もの足音がバタバタとやって来たかと思うと、あっという間に僕たちを取り囲んでしまったのです。
 それは、黒いスーツに身を包んだ大人達でした。
 僕は突然のことに驚いて、また身を竦ませてしまいました。だって、そうでしょう。こんなに怖そうな大人達が、何人もいるのですから。
 だけど、少年はちっとも物怖じした様子を見せません。
 それどころか、立派な大人達に向かって、遅かったじゃないか、なんて言うのです。
 まるで、王子様のような態度です。
 僕は、ビックリしてしまって…… 声も出せませんでした。
 どうやら、大人達は少年を捜していたようでした。ああ良かったとか、大丈夫でしたかとか、そんなことを言っていたような気がします。
 そんな大人達に、少年は、僕の手を引いて言いました。
 この子が遊んでくれたから平気だ、と。
 すると、あんなに怖そうな大人達が…… たちまち、優しい笑顔で僕を見たではないですか。
 その上、ありがとう、ありがとうと口々に言いながら、頭を撫でてくれたのです。
 ……一体、何が起こったのでしょう。
 大人達に代わる代わる撫でられながら、僕は何がなんだかわかりませんでした。
 頭を撫でられたのだって、初めてかもしれないのに。
 頭の上に手をかざされた時、僕は、思わず身をすくめてしまったのに……
 こんなに怖そうな大人達が、僕に優しくしてくれているのです。
 ただ、この少年のひと言を聞いただけで、です。
 頭を撫でられている僕を、少年は、どこか嬉しそうに見ていました。
 そして、僕の手をそっと離すと、今度は半ズボンのポケットをごそごそ探り始めました。
 だけど、彼の手が、何かを取り出す前に……
 もうひとつの奇跡が、起こったのです。


 その時でした。 
 背後で何か怒鳴り声がしたかと思うと、血相を変えた父がやって来て、僕を乱暴に引寄せたのです。
 僕は、ビクッとして身を竦ませてしまいました。
 掴まれた肩が痛くて、ジンジンと痺れます。
 父は、僕に怒鳴りました。何をしている。どんな失礼をしたのだ、と。
 その時の僕は、父が何故怒っているのかわかりませんでした。
 でも、今になって思えば……
 僕の側にいたのは、どう見えても重役の子らしい少年です。そして、そのボディーガード達に取り囲まれている僕、という構図。
 おそらく父は、僕が何か無礼なことをしたのだと思い込んだのでしょう。
 父は、いつものように一方的に僕を怒鳴りつけ、手を上げようとしました。
 すぐに自分を襲うであろう痛みに、僕は怯え…… いつものように、ギュッと目を瞑りました。
 だけど、その時でした。
 あの人の声が、振り上げられた父の手をいとも容易く止めてしまったのです。

「よせ!」

 少年が言ったのは、ただそれだけでした。
 幼い少年の、澄んだボーイソプラノです。恐ろしい怒鳴り声でも、わめき声でもないのです。
 それなのに。
 それなのに、父は……
 いつものように僕を撲とうとした父は、手を止めてしまいました。
 まるで自分が撲たれたかのようにびくりと身を竦ませて、父は、手を止めたのです。
 何が……
 一体、何が起こったのでしょう。
 おそるおそる目を開いた僕は、驚きのあまり息を飲みました。
 まるで鬼のようだった父の形相が、すっかり驚愕に変わってしまっています。まるで、突然打ち据えられた子供のように。
 僕と同じくらいの少年が、ただ一喝しただけ。
 それだけだと言うのに。
 少年は父を睨み付け、静かに言いました。
 その子は、俺と遊んでいただけだ。何も悪いことはしてない。放してやれ、と。
 すると、父は……
 ああ、今でも信じられません。
 父は…… 恐ろしい、僕の父は……
 その幼い少年に命じられるまま、僕の肩を、放したのです。


 一体、何が……
 どんな奇跡が、起こったのでしょうか。
 僕は、信じられませんでした。
 今目の前で起こったことが、解放された肩に残る僅かな痛みが、信じられませんでした。
 あの、父が。
 あんなにも巨大で、恐ろしい父が。
 あんな小さな少年に、一喝されただけで…… 素直に、従ってしまったなんて。
 僕は驚いて、声も出ませんでした。
 身体が、カタカタ震えました。足に力が入りませんでした。
 僕は、怖ず怖ずと少年を見ました。
 すると、少年も僕の方を見て、にこっと笑いました。
 もう大丈夫だぞ。
 その優しい笑顔は、まるで、そう言ってくれているようでした。
 ……ああ、僕は……
 僕は、声も出せませんでした。
 いつの間にかぐすぐすと顔が歪んでいって、やがて、僕は泣き出してしまったのです。
 涙が止りませんでした。
 身体中の氷が溶け出していくような、そんな気がしました。
 人前でこんなに泣いたら、また父に怒鳴られてしまうかもしれません。だけど、僕は泣いてしまいました。身体が震えて、震えて、どうにもならなかったのです。
 こんな、こんなことは……
 僕は、はじめてで…… はじめてで……
 そんな僕に、少年はそっと近づいて来ました。
 そして、泣きじゃくる僕の顔をのぞき込むと、優しい声で言ったのです。
 ほら。これをやるから泣くな、と。
 少年は半ズボンのポケットから何かを取り出し、それを、僕の手に握らせてくれました。
 それは、シロムシクイを象った、小さなブローチでした。
 ほんのりと暖かい、まるで少年のぬくもりの塊……
 僕はしゃくり上げながらそれ見て、そして、目の前の少年を見ました。
 少年の胸には、僕の手にあるのとよく似た、キイロムシクイのブローチが輝いています。キラキラと、まるで勲章のように。
 少年は、言いました。
 また一緒に遊ぼうな、と。
 彼は僕の手を遠慮無く掴むと、ぎゅっと両手で握りました。
 そして、とても、とても優しい眼差しで…… 僕に、微笑んでくれたのです。


 ……ああ……
 なんて、なんて…… 眩しいのだろう。
 僕の中に、光が射したような気がしました。
 暖かくて、優しい、お日さまの光でした。
 怯えて震えていた僕に、そっと手を差し伸べてくれた、彼。
 甘いチョコレートをくれた、彼。
 偉いなと褒めてくれた、彼。
 あの恐ろしい父をいとも容易く従え、僕を助けてくれた、彼。
 その日初めて出会った、名前も知らない少年が…… 僕には、とても眩しく見えました。
 その少年が、その存在が、まるでお日さまのように思えました。
 僕に手を振り、去って行く少年の姿。
 手の中のブローチを握りしめながら、僕は、その姿を胸に焼き付けていました。
 優しかった、彼。
 とても暖かかった、彼の手。
 彼は、また遊ぼうと言ってくれました。だけど…… きっと、もう二度と会うことはないでしょう。
 王子様のような彼と、僕とでは、住んでいる世界が違い過ぎる。
 子供ながらに、僕はそれを感じ取っていました。
 だけど。
 あの少年のことは、忘れません。
 あの少年がくれたお日さまのような光を、僕は、一生忘れません。
 これから先どんなことがあっても、どんなに辛いことがあっても…… あの少年のことを思い出せば、僕は、きっと耐えられる。
 きっと、生きていける。
 彼がくれたブローチを胸に抱いて、僕は、幼心に思いました。
 子供が何をと、滑稽に思われるでしょう。
 でも、その時の僕は…… 心から、そう思っていたのです。
 千紗さん。
 今でも僕にとって、お日さまような人。
 あの人と初めて出会ったこの日のことを、僕は、忘れたことはありません。
 そしてこれからも、忘れることなどないでしょう。
 辛くて、苦しくて、痛みに悶え呻いた幾つもの夜も…… 僕を生かしてくれたのは、いつだって、あの人がくれた光だったのですから。


 
 


 きっと、もう二度と会うことはないだろう。
 そう考えていた僕は、良い意味で、裏切られることになりました。
 その日から一ヶ月ほど経って、僕は父に連れられ、巨大な本社ビルへと向かうことになるのです。
 そこにどんな複雑な手続きがあったかは、お話する必要はないでしょう。
 ともかく、僕は名義だけ某企業人の養子となり、千紗さんの『ご学友』としてお仕えすることになったのです。
 企業の中での暮らしは、家にいた時とはまた違った過酷なものではありました。
 大人たちは僕に酷い圧力を掛け、全てを賭けて千紗さんに尽くせと、あらゆる護衛術を僕に叩き込んだのです。
 精神的にも肉体的にも、子供だった僕には重圧の日々。
 でも、僕は決して辛くはありませんでした。
 千紗さんは、僕を一番のお友だちにしてくれました。千紗さんはいつも僕の手を引いて、いつもとても楽しいことを教えてくれたのです。
 そんな千紗さんの為なら、どんなことだって、辛いはずがありません。
 僕は、日々励みました。千紗さんの為に。
 僕にそんな重圧がかけられていたことを、幼い千紗さんは知りません。だから、たまに僕を連れて無茶なことをして、後で僕だけが叱られたりもしました。
 でも、千紗さんは今も仰います。
 あの頃はすまなかった。
 だが、お前のおかげで、上に立つ者がどうあるべきかを学ぶことが出来た。ありがとう、と。
 そのお言葉を聞く度に、僕の胸がどんなに熱くなるか……
 おいおいと笑うあの方に髪を撫でられて、僕は、身体が震えるような想いを噛みしめるのです。
 ……ああ。
 やっぱりあの方は、僕にとってのお日さまなのです。
 あの方のことを、僕は、心からお慕いしているのです。
 企業の首輪に繋がれていた頃は、こんな想い、自覚することすら出来ませんでした。
 でも、千紗さんが首輪を外してくれて。
 そして、お前が好きだと、真っ直ぐな眼差しで言ってくれて……
 僕は、初めての自由を手に入れたのです。
 身分も、立場も、生きる場所の違いすら関係なく…… 心の動くままに、あの人を好きになる自由を。


 
 ……何だか、照れくさいものですね。
 せっかくの誕生日ですから、少し自分のことをPC画面に書き連ねてみようかと思ったのですが。やはり、こういうのは性分ではないようです。
 PCの向こうにいる、『貴方』。
 始めどう書いたらいいかわからなくて、第三者にお話するつもりならばと、こうして貴方に向けて書いてみました。
 おかげさまで、僕も少し胸の内を吐き出せたようです。
 少し、スッキリしました。
 僕が勝手に想定していた、PCの向こうの『貴方』。
 こんな長いばかりのつまらない話を、黙って聞いて下さってありがとうございました。
 ああ、もう筆を置く時間です。
 今夜は、久しぶりに千紗さんが来て下さる予定ですので…… そろそろ、お食事の支度をはじめようと思います。
 千紗さんが、美味しいケーキを買って来て下さるそうなのです。
 すごく、楽しみです。
 ああ、マギィがそわそわしはじめました。
 マギィは、千紗さんからいただいたブローチを核にした、僕の使い魔です。だから、大好きな千紗さんにお会い出来るのを、マギィも心待ちにしているのでしょう。
 何かあったら、またこうして貴方に書かせていただこうと思います。
 その時は、どうかまた、僕の話を聞いてやって下さい。
 では、失礼致します。
 おやすみなさい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
■ DollyShadow組の看板息子、バンリがお誕生日を迎えました。
あらためて、おめでとうバンリさん!





そして、バンリの降臨と共に始まったDollyShadow世界も、3周年になります。
擬リヴ自体は実はもっと前からやっていたのですが、今までとは違うキャラと世界観で始めようと思ったのが『DollyShadow』で、最初にラヴォクスとして降臨したのがバンリでした。
(ミズリは何故か「バンリさん」と呼んでいるので、以後そう呼ばせていただきますね^^)
バンリさんは元々はミズリのオリキャラだったのを、リヴリーとして降臨させたのです。
そして、バンリさんのお相手として、千紗が誕生しました。
それから、千紗とバンリ以外の第三者(理解者)が必要だということで、ヒナタが誕生して…… バンリさんと同じように元はオリキャラだったアヤセがリヴリーに降臨して、チャコールやクゼさんが登場して…… と、いつの間にか随分と世界が広がったものです。
ありがたいことに、ヒナタとお付き合いしていただいている濫觴君をはじめ、他の擬リヴラーさんのお子さんとも絡んでいただく機会もあったりして、本当に楽しく創作が出来ています。
また、DollyShadow組のお話を読んで下さっている皆様にも本当に感謝しています。
niceがいつもすごく励みになっています^^
3周年を迎えた『DollyShadow』世界ですが、これからもマイペースにちょこちょこ書き綴っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします!
やー、書きたいこといっぱいで困るくらいです^▽^;


■ バンリさんのお誕生日ということで、今回はバンリさんの過去を本人の独白で綴ってみました。
実は元はかなり以前に書いたものなのですが、途中で放置してしまっていたので、ちゃんと完成させました。
それに、最近はバンリの兄の海里も登場していますし、バンリさんの過去はちゃんと語っておいた方がいいなと思いまして。
バンリさんがちーちゃんに対して健気で従順なのも、こういう過去があったからだったりします。
ちーちゃんの方は、もう「バンリは俺の嫁」って感じの紳士(変態という名の意味で)なのですが……
ちーちゃんサイドの話は、またちーちゃんのお誕生日に書こうと思います。
何はともあれ、今はすっかり仲良しラブラブな千紗とバンリ(ちーばん)。
ミズリの中では、既にちーばんは夫婦みたいなものですね。
尊大でちょっとワガママだけどバンリさんが大好きなちーちゃんと、そんなちーちゃんの側で幸せそうなしっかり者のバンリさん。
ちーばんはミズリの癒し……!
ちーちゃんがなかなか自由に活動出来ない立場の人なので、お話に登場する頻度はちょっと少なめだったりするのですが…… やっぱりDollyShadowの代表カプはちーばんだとミズリは思っていたりします。
最近は海里が出て来たせいで、ちょっと波乱の予感がするこの周辺。
ちーちゃんの腹違いの兄クゼさんに海里が近付いたりもしてて、ちょっと不穏な空気です。
でも、ちーばんの夫婦っぷりは変わらずかと思いますけどね。
ある意味、我が家で一番安心してお楽しみいただけるカプです。ちーばんは(笑)



「千紗さんがいらっしゃるまで、ご本を読んでいましょうね」


デフォルトのバンリさんは、可愛いラヴォクスです^^*
ラヴォは、ちまちました動きとか、お食事の時の食いちぎるようなワイルドさとか、ギャップがすごく可愛いですよね!
バレンタインの合成イベントは、甘い物大好きなバンリさんにはすごく嬉しいプレゼントでした。
可愛いクマちゃんチョコを飾って、ちーちゃんが来るのを待っているバンリさんです。
改めて、お誕生日おめでとうバンリさん!
そして、3周年おめでとうDollyShadow組!
これからもバンリさんにはちーちゃんと仲良くしていただいて、DollyShadow組にはそれぞれ頑張ってもらいたいと思います。
 
 
 

 
 
■ やー、前回からちょっと更新遅れてしまってすみませんでした><
版権での同人活動の方がちょっと間に挟まってしまったもので…… そういう時は、なかなか同時には書けないものですね;
ここのところうちの子お誕生日記事が続いていますが、実は次回もお誕生日記事だったりします^^;
またお付き合いいただければ嬉しいですー。

■ そして、皆様ホイホイされていらっしゃるガーデン箱…… ミズリも当然のようにホイホイされました。
クゼさんの中庭のイメージにすごく近かったもので、つい。
現在ちょっと負けてる状態なので、本命のものが出たら、スクショUPしようと思います。
どうか壁紙が出ますようにー!!><






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